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PTCAの始まり
経皮経管冠動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty :PTC
A)は1977年にGruntzig(グルンツイッヒ)によりスイスで初めて行われました。
初期の頃は、オンザワイヤー型のバルーン(バルーンとワイヤーが一体になったも
の)で、今と比べるとその性能ははるかに劣っていたのですが、その後素材の改良など でそれらの性能が向上するとともにPTCAの成功率も上昇し、この手技は世界中に広 まるようになりました。
(注)
最近では、PCI(Percutaneous Coronary Intervention)という呼び方が一般的です。
Gruntzig(グルンツイッヒ)先生はその後アメリカに移られ、多くの弟子を育てられ
ましたが、残念ながら自家用飛行機の墜落事故で亡くなられました。
(みなさん、どんなに大金持ちになっても、自家用飛行機だけは買ってはいけません)
しかし、当時のPTCAでは解決できない問題点として、再狭窄の問題(再狭窄率約
40%)、慢性閉塞生病変や石灰化病変への対応が難しい、などがありました。
ステントの開発
上記問題点のうち、再狭窄率を減少させる目的で、冠動脈を内側から支えるステント
(考案した歯医者さんの名前)が開発され、1980年台後半より日本でも一部施設で使用 されるようになりました(Palmaz-Schatz ステント)。そして、いくつかの研究でステ ントの再狭窄率減少効果や急性冠閉塞の発生率を減少効果がわかり、ステント有用性が 認知されるようになりました。
ステントの問題点
当時ステントには別の問題点がありました。冠動脈内に異物を挿入することによる血
栓形成を予防するために、強力な抗血栓療法としてクマジン(ワーファリン)を使用し なければならなかったのです。ワーファリンは至適投与量が患者各々で異なるため、そ の設定が煩雑なばかりでなく、出血の合併症(脳出血、消化管出血、穿刺部出血など) も少なからず発生しました。特に穿刺部の出血性合併症の頻度は海外の文献で約10%、 日本の文献でも約5%と報告されています。
TRA/TRIの始まり
1989年カナダ(モントリオール)のCampeauは世界で初めて経橈骨動脈による心臓カ
テーテル診断造影(5Fr.シース使用)に関する論文(Lucien Campeau, Percutaneous radial artery approach for coronary angioplasty , Catheterization and Cardiovascular Diagnosis 16:3-7 1989)を出しました。第2番目のTRA論文(英文) は、国立大阪病院外科の大滝先生(Percutaneous Transradial Approach for Coronary Angiography:Cardiology 1992;81(6):330-333 )のようです。(現在は近畿大学の助教 授)
日本語論文では1989年に初めてTRAを実践された文字直先生(京都市立病院)が著
された、Radial puncture(橈骨動脈穿刺法)による冠動脈造影法の開発:文字直、他 4名:循環器科27:558-562,1990 が最初のようです。(現在は開業されています)
PCIはその頃大腿動脈から8Fr.のシースを入れて行われていました。Palmaz-Schatz
ステントもそのディバイスが太かったので8Fr.のガイドカテーテルを使用しなければ なりませんでした。
1992年、オランダのDr. Kiemeneij (キムネイ:英語読みではキムニー)はステント
後の合併症のうち、大腿穿刺部の出血性合併症を回避するため、6Fr.のシステムによる 経橈骨動脈的冠動脈形成術 (Transradial Coronary Intervention : TRI)を開始し、 1993年を始めとして、次々にTRI関連の論文を発表しました。そのころには通過性が向 上した細くて通過性の良いバルーンが開発され、またPalmaz-Schatz ステントも、シス テムからステントだけを抜き取り、別のバルーンに乗せ換えるという手法を用いて6Fr. のガイドカテーテルによるTRIを実現したのです。
TRIによるステント植え込みの治療成績は、成功率は経大腿動脈アプローチと変わら
ないが、圧迫止血が確実に行えるために穿刺部合併症を軽減するという効果がありまし た。
しかし同じ頃、ワーファリンの出血性合併症を軽減するための別の研究にて、1995年
頃にはワーファリンにかわりチクロピジン(パナルジン)を使用すれば、急性血栓性冠 閉塞を減少できることが確立しました。チクロピジンは比較的簡単に投与できるため、 ワーファリンよりも簡便に使用できます。これで、大腿動脈アプローチによるステント 術後の煩わしさ、出血性合併症も軽減しました。
そのため、TRIが大腿動脈アプローチと比べて術後の出血性合併症を減少させるとい
う当初のアドバンテージは薄れたのですが、患者に対する低侵襲や苦痛の軽減効果、入 院期間が短いという医療費抑制効果などが注目されるようになりました。時代も”得ら れる結果が同じなら低侵襲が良い”という流れでもあり、TRA/TRIは当初とは別のアド バンテージにて日本でも始められ、認められ、次第に広がって行きました。
(2003年5月一部改訂)
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