緒言-A 
2001年7月

 1977年にPTCAが始まって以来そのStrategyは、より再狭窄の少ない
Deviceを使用するという方向に向いていました。そして様々なNew 
Device(Cutting Balloon, Stent, DCA, Rotablator,など)を手に入
れてその使い分けが必要になった頃、あるいはCTOの手技が成熟してき
た頃(1995年ぐらいでしょうか)からは、コストの問題が引き合いに
出されるようになりました。         そのStrategyの
Cost-Performance が問われるようになったのです。その手
技・Deviceを使用することによるコスト増だけの結果(パフォーマン
ス)が得られているかどうかを考えてStrategyを選択するべきだとい
う主張 です。これは、将来インターベンションが包括医療(俗に言
う”まるめ”)になると言われだした時期とも一致し、アメリカ型の
考え方が輸入されたものと思われます。

 このコストの問題で最初は”日本の総医療費抑制”という事がさか
んに言われていましたが、今は”個々の患者さんの支払い負担を減ら
す”という事も言われています。安くてパフォーマンスが良ければ最
高ですが、一方では病院の収益の事を考えないといけない場合もあり
ます。当院でもDirect Stentingを多用していた頃は、一症例に使用
したバルーンの平均本数が1未満となったこともありました。患者さ
んにとっては良かったかもしれませんが、病院や業者さんにとって
は?というところでしょうか。

 ただし本音で言えば私は患者が自分の身内であった場合はコストや
病院の収益などは考えないと思います。狭心症の診断造影で不必要な
右心カテなどするわけがないし、PCI が必要な時も日本の総医療費の
ことなど考慮するはずがありません。病院での支払いを減らすと言っ
ても、今の保険制度では何十万円払っても月6〜7万円を越えた部分は
返って来ます。即ち、仮払いは必要ですが、実質的な支払いは月6〜7
万で済むのです。それなら、私は普段なら22mmの病変にS670かNirの
24mmを入れますが、自分の親の場合は信頼しているマルチリンク
(15mm)を2本入れるかもしれません。このように本音とタテマエは違
うのです。

 このような私ですからCost-Performance の大事さなどは主張でき
ません。

 Cost-Performanceを考えてStrategyを選択することが必要という考
えは”タテマエ”としては大切だと思いますが、私はTRA・TRIを実践
してきてもう一つの大事なことを感じています。それは、”Patient'
s Comfort”と手技のPerformanceを考慮した        
 ”Comfort-Performance" という概念です。

  ”Comfort-Performance" という概念は、Device Selectionによ
り、どれだけ”患者さんの快適さ”が損なわれるかという指標 です。
具体的には、6Fr.TRIを患者さんのComfortable度(快適度)の基準と
して、それではできないDCAや大きなBarrのRotaなどのパフォーマンス
が、患者さんの快適さを犠牲にするに余り有る優位性をバルーンやス
テントに対して持っているかということを考慮することです。 DCAで
は、LAD proxymal lesion やBifurcation lesion などではステント以
上の成績が出ているとも聞きます。また、バルーンで20気圧まで上げ
ても拡がらない場合はRotaをする以外にはありません。これらのパフ
ォーマンスが患者さんの快適さを奪ってまでもする価値があると判断
すれば、当然strategyに採用べきですが、その差が小さければ患者さ
んの快適さを優先しても構わない時があると思います。

 
 
 上の円グラフのように3者を考慮すべきだと思いますが、その考慮する割合は先生方によって違うと思います。私なら、1、Device Selection を35%、2,Cost を15%、3,Patient's Comfortを50%ぐらいでしょうか。

 TRA・TRIを数多く実践し、その合併症の少なさを経験され、多くの患者さんの意見を聞けば、この ”Comfort-Performance" の概念がはっきり理解できるようになると思います。また、”患者さんが快適なこと”と”手技時間が短いこと”は確実にPTCAの合併症を減らしていることも解ります。