”患者の選択”

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TRA/TRI患者の選択

modified Allen's Test  
 橈骨動脈から手掌にかけての解剖学的特徴として、橈骨動脈と尺骨動脈が手のひらで
ループを作り、そこから手指に動脈血を供給しているという動脈の"二重支配"というの
があります(橈骨動脈の基礎知識で解説しています)。もしこのループの形成が不完全
な場合は、橈骨動脈が閉塞した時に尺骨動脈から親指側への血流が確保されなくなり、
親指側の阻血症状が出ることが予想されます。そうならないためには、初めにこのルー
プの存在(二重支配)を確認する必要があります。その簡単な方法がmodified Allen'
s Testです。


簡単なmodified Allen's Testの実際
1)患者さんと向き合い、穿刺予定側の手首の橈骨動脈と尺骨動脈を両手で圧迫して血
流を遮断する。




2)この状態で患者さんに手のひらのグー、パー、グー、パーを10回ほど繰り返しても
らい、最後はパーの状態にしてもらう。この時手のひらは阻血状態なので真っ白になっ
ている。

グー、パーを10回ぐらい繰り返してもらう


3)次に尺骨側の圧迫のみを解除する。
4)親指側を含む手のひら全体に10秒以内に赤みが差したら、尺骨動脈の血流が親指側
にも行っているという証拠となり、ループの存在が確認できる。この事をアレンテスト
陽性(正常)と言う。逆に10秒以上経っても手のひら全体、あるいは一部の阻血状態が
続くときにはアレンテスト陰性と呼び、ループ形成が不完全であるという証拠になる。


尺骨側の圧迫のみを解除して、親指側までのすばやい血流再開を確認する。



患者選択の”原則禁忌”と意見が分かれる”相対禁忌”

 ほとんどの症例はTRIで可能であるが、以下の状況の場合は、TRA/TRIを避け、他のア
プローチを選択する方が賢明でしょう。

a,原則禁忌
1,アレンテスト陰性例。
 海外の初期の文献では数%〜数十%ととんでもない数値が書いてあるのもあります
が、どんなに多く見積もっても私の経験では1%もありません。しかし、本当に陰性の
場合は、橈骨動脈が閉塞した時に親指側の阻血症状が出る可能性があるので避けてくだ
さい。

2,橈骨動脈が触れないか微弱である例。
 これは物理的に穿刺が困難か不可能であります。

3、過去の造影にて、橈骨動脈や鎖骨下動脈の走行異常やスパスムが確認されている
例。
 再び苦労することなどありません。アプローチを変更すべきです。

4、慢性腎不全で透析シャントがあるか、将来シャントが必要になりそうな例。
 シャントは橈骨動脈を使用するので閉塞させてしまっては良くありません。その場合
は橈骨動脈を温存しましょう。

b, 以前は原則禁忌と言われていたが今は意見が分かれている項目

1,緊急ショック症例で、大動脈内バルーンパンピングを併用する可能性がある時。
 この場合は当然大腿動脈アプローチが有利という意見が一般的でありましたが、最近
ではTRI後に大腿動脈を刺しても時間的ロスはほとんどないという意見やパンピングと
PCPSを併用する場合にはむしろ冠動脈へのアクセスはTRIしかないという意見も聞
こえます。

2、7Fr.以上のガイドカテーテルが必要なディバイス使用例:
 事前に橈骨動脈径をエコーで測定して2.7〜3mm以上ある人には7Fr.、8Fr.のシースを
使用しても問題ないという意見もありますが、やはり閉塞率は上がるでしょう。

3、身長が極端に低い人。
 これは身長が低い人は当然橈骨動脈径も小さいという"思いこみ"を前提に論じられて
いた意見ですが、私の経験では身長が橈骨動脈径とよく相関しているとは思えません。
患者さんの身長ではなく、あくまでも橈骨動脈径そのものが太いかどうかです。

4、対側造影が必要な慢性閉塞性病変:
 大腿動脈アプローチならすぐに反対側の大腿動脈を穿刺できるので、当然大腿動脈ア
プローチで施行するべきという意見でしたが、実際にはTRIでも反対側の橈骨動脈を穿
刺する両差し(別名かかし)、あるいは同側の上腕動脈を穿刺する方が患者さんの術後
が楽なので実践している施設も多く見られます。
 ただ、慢性閉塞性病変を7Fr.以上のシステムで行う施設は全例大腿動脈穿刺で施行し
ているので、どちらかと言うと、TRIかTFIかという選択よりも、6Fr.か7Fr.かと
いう選択で決められているようです。

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