橈骨動脈の基礎知識

@橈骨動脈の解剖 

 心臓の左心室から上行大動脈が出た後、まず腕頭動脈が分岐します。さらに頭に向かう右総頚動脈と右腕方向に向かう右液窩動脈に分かれます。右液窩動脈は上腕付近では上腕動脈と呼ばれ、右肘付近に達します。ここで2本の動脈に分かれ、右手の親指側を走る橈骨動脈、小指側を走る尺骨動脈となります。尺骨動脈からは前骨間動脈も分かれますが、この3本の動脈は手のひらでまた一緒になって動脈のアーチ(掌弓動脈)を形成し、そこから5本の指へ向かう動脈が分かれます。
 上腕動脈は1本ですが、手のひらに血液を送る太い動脈は
(橈骨動脈と尺骨動脈)2本あります。この事が、橈骨動脈にトラブルが起こっても、尺骨動脈からの流れが手のひらに血流を供給して、手首のしびれや虚血症状が出ない理由です。

A手首付近の神経の解剖

 神経は、液窩(脇の下)付近からすでに3本あり、右腕の真ん中を走る正中神経、親指側を走る橈骨神経、小指側を走る尺骨神経と呼ばれています。
 下図は右手首の輪切りを手のひら側から見た断面図ですが、橈骨動脈は正中神経と離れています。

 肘の付近では上腕動脈と正中神経がすぐ近くにあり、上腕動脈アプローチで圧迫止血がうまく行かず大血腫を作った時など、正中神経を圧迫して神経障害の合併症を起こすことがあります。しかし、橈骨動脈はすぐそばに神経が走っておらず、また橈骨動脈が比較的浅いところを走っているので、術後の圧迫止血が的確に施行でき、もし内出血しても大きな血腫をつくるスペースもありません。これが、術後の大血腫や神経障害の頻度が著しく低い理由です。

B 橈骨動脈径と尺骨動脈径

 以下は湘南鎌倉総合病院・齋藤滋先生にデータを提供していただきました。

 日本人の橈骨動脈径についてはいくつかの文献がありますが、ここでは齋藤先生に提供していただいたデータを提示します。

 以下のグラフは日本人の男女別の橈骨動脈径の分布図です。このグラフの見方は、男性(Male)で2.6mm以上ある人は全体の約80%、3.0mm以上ある人は全体の約60%、3.4mm以上ある人は約40%ということです。女性(Female)では2.6mm以上は約60%、3.0mm以上は約40%です。

 TRA・TRIでは橈骨動脈とシース外径の関係(比率)が問題となりますが、そのシース外径を基準として見れば、6Fr.シース径より大きい橈骨動脈径を持っているのは、男性で約90%、女性で約80%です。7Fr.シースだと男性で約70%、女性で約50%となります。

 同じ人の橈骨動脈径と尺骨動脈径の両方を計測し、その関係を示したものが下の図です。縦軸が橈骨動脈径、横軸が尺骨動脈(Ulnar Artery)径です。両者は正比例の関係で、橈骨動脈が大きい人は尺骨動脈も大きいようです。冠動脈は左回旋枝が大きければ右冠動脈は小さいという反比例の関係なので、手のひらへの血流を二重支配している両者の関係も反比例と予想していたのですが、意外にも正比例の関係でした。